けはい

2021/12/10

鳥取に来て9カ月。長く住んでいた家の主が不在になった家に2度ほど住むことになった。
他界したり施設に入ったりしたおばあさんたちの家で、食器や洋服などがそのままにあった。

その家に残っている食器を使ったり、服をもらったり、布団を借りたり、暮らしの痕跡が残る空間に身を置いていて「今、目の前にいない人に出会うということがあるんだなー」と思った。

それはある種の「けはい」のようなものである。嫌な感じは一切ない。

死んじゃった人については、その人をよく知る人が、知らない私にあれこれエピソードを聞かせてくれたりもする。それでその人の住んでいた家で、話題の本人は不在で、驚いたり、しんみりしたり、げらげら大笑いしたりする。

たみにも独特のけはいのようなものがある。特定の誰かの気配ではなくて、なんかいびつでおっきなかたまりみたいな。(言っておくが、私に霊感はまったくない)。

そして私の知らないたみの物語を、多くの人々――現・旧スタッフ、お客さん、近所の友人たち、町のおじちゃんやおばちゃん、――が驚いた顔で、しんみり顔で、ときに嗚咽まじりの大爆笑とともに話してくれる。

それは、目を使ってもぜんぜん見えないけど、たしかにここにあったりする。

(さち)

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