抹茶伝道師

2019/02/20

とある近所の人は、お茶をしており、家に尋ねるとお抹茶をさりげなく出してくれる。町の催しでも、和装をピシッと決めて、下駄をからんころんと鳴らして、お抹茶を出す。亡くなった嫁さんの教えだと、尻に敷かれてる振りをして、決して偉そうじゃない。昔は、お茶会を開いて、みんなで着物で集まり、美味しい和菓子やお抹茶、お料理をごちそうになって、人生相談を聞いてもらっていた。

今では、一人暮らしになって、尋ねることが減ったけれど。たみにコーヒーを飲みに来てくれたときには世間話などをする。あるとき、空いているカウンターに座って「三宅くんに相談できたから、これでもう安心だ。」とニンマリして、「今度、旅行にいくからゲストハウスを教えてもらったんだ。」と少年みたいに話す。ゲストハウスという言葉がなんだかくすぐったい感じに聞こえたので、「ゲストハウス?旅館とかビジネスホテルに泊まらないんですね?」と聞くと、「わしは酒がのめないから、旅行先の町の酒屋に行けないんだ。そしたら、町の情報がわからないだろう?ゲストハウスに泊まって、こういうカフェみたいなところで、お抹茶を振舞うとみんな集まってくれて、いろいろ話ができるんだよ。まあ、川辺でお抹茶出して通りすがりの人と飲むのが、またいいんだ。」お酒に強かった嫁さんと旅行していたときは、旅先の居酒屋でアレコレ話が聞けたんだろう、一人で旅行にいくようになって、抹茶を持ち歩いているなんて。

「今年の秋は、青森に梨をいっぱい持っていくんだ。あの子と約束したからな。」と、自動車でいこうか、途中でどっか寄ろうか、計画を立ててる。この町で生まれて育った子どもたちと家族が、もうすぐ青森へ引っ越しする。たみができた時からなので、7年ぐらいの付き合いかな。遠くに離れ離れになっても、今度は町の人が、遠くの場所に思いを馳せて、生きる糧になってる。
(J)

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